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調査・講演に明け暮れた秋、執筆に追われた冬がすぎて、春。
ひさしぶりのブログ・アップは、授業の紹介です。
明治大学に「学部間共通総合講座」というのがあります。学部や専門の枠を超えた、学際的内容を扱うもの。専任教員なら誰でも提案できるということで、昨年より春学期(前期)と秋学期(後期)、それぞれ一つずつ、コーディネーターとして関わっています。で、今年もひきつづき同じテーマで、前期は「ローカル・スタンダード」、後期は「インティマシー」をキーワードとして構成。二つのベースにあるのは、「環境人文学」という視点です(カタカナ・漢字ばかりですみません。詳しくは下記の概要で)。
テーマは同じですが、曜日・時間は変えました。曜日は水曜、時間は去年より一つ遅い、6限目(18:00-19:30)。あくまで明大生向けの授業ですが、少しでも多くの人にアクセスしやすいように、と思って(パリに、コレージュ・ド・フランスというのがあります。フランスの知の頂点を担う高等教育機関ですが、基本誰でも受講できる。大学の授業って本来そうあるべきじゃないか、というのが密かな思いでもあります)。
以下、ひとまず春学期の概要です。ご参考になさってください。
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明治大学 学部間共通総合講座「環境人文学Ⅰ」
コーディネーター : 鞍田 崇(理工学部・准教授)
開講日 : 水曜日/6限(18:00-19:30)
教 室 :駿河台キャンパス リバティタワー1084教室(8階)
◆春学期(環境人文学Ⅰ):ローカル・スタンダードをデザインする
(趣 旨)
環境問題をはじめ現代の社会問題は、多様性を損ない画一化へと邁進するグローバル化の「ひずみ」といえます。ひずんだ社会を次のステージへと変革するための道筋を考えるのが「環境人文学」のねらい。でも、どうすればよいか。すでに多くの取り組みがなされています。多くのデータが蓄積され、多くの制度的・技術的対策が実施されています。何より多くの人が問題に気がついています。でも動こうとしない。問うべき点はここにあります。人々を社会変革へと誘う駆動力となるもの、それをここでは「ローカル・スタンダード(地域に固有でありかつ普遍的な価値)」の確立において培われる地域社会への「共感」に求めます。ローカル・スタンダードの確立手法であると同時に、共感の深まりを示す「言語化」・「体験化」・「感性化」・「社会化」という4つのプロセスについて明らかにするとともに、社会状況や思想背景を論じる「概念化」、さらには「実践例」について扱います。
(内 容)
□ 4月13日
- いまなぜローカルか、いまなぜ共感か
- 理工学部・准教授
- 鞍田 崇
シリーズ初回にあたり、コーディネーターより、講座の概要、成績評価方法等を説明します。ローカル・スタンダードは地域固有でありかつ普遍的な価値。地域の中だけで通用するという意味ではなく、地域に固有なものに徹底的にこだわることで,むしろ域外の人々の共感を集める普遍性を獲得する,そういう意味です。しかしなぜいまローカルなのでしょうか。なぜ共感なのでしょうか。この点を理解するには、20世紀から21世紀へ、ゼロ年代から10年代へといった大小のタイムスケールの中での社会変化を理解する必要があります。まずはその点をじっくり考察していきましょう。
□ 4月20日
- 【共感の言語化①】話すことと聞くこと
- 東京大学大学院総合文化研究科・教授
- 梶谷 真司
共感の「言語化」の基本的ふるまいは「対話」にあります。しかし、そもそも人間にとって、「話す」と「聞く」とは、どういうことを意味するのか。それが大事なのはなぜなのか。この二つはどのように関連しているのか。とりわけ「聞く」ということから見た場合、そこに浮かび上がってくるのは、「自由」の問題です。そこで本講義では「話す」と「聞く」と「自由」の関係について考えてみます。
□ 4月27日
- 【共感の体験化①】さまざまなローカルの実地調査法:人類学・民俗学の立場から
- 東北大学大学院文学研究科・准教授
- 山田 仁史
地域社会に寄せる共感は言葉の中だけでなく、あたり前のものとして素通りしていた日常のリアリティを実感をもって見直すことで、より深まりを示すものと考えられます。共感の「体験化」が扱うのはそうしたフェーズ。でも、実感をもって見直すというのはどういうことなのでしょうか。たとえば、電気も水道もトイレもないラオスの村で、村人たちとオオトカゲを食べたこと。台湾原住民(先住民)の伝統的お祭が、しだいに観光化され、今では無形文化財として保護の対象になっていること……。学問として対象を観察し調査する方法についてお話しします。
□ 5月11日
- 【共感の可視化①】デザインをデザインする
- 名古屋芸術大学デザイン学部・講師
- 水内 智英
共感は形あるものとすることで、より深まりを示しさらなる共感の要にもなります。それが「可視化」。プロダクト、グラフィック、制度など、さしあたりデザインの領分を想定しています。他方,地球環境問題や精神環境へのケア不足など、私たちの社会が抱える問題は益々複雑化し、その解決は単純な方法では行えないことが認識されてきました。そうした背景のなか、デザインが社会において有益な役割を果たすためには、デザインそれ自体をデザインする必要に迫られてもいます。具体的事例を踏まえながら「共感のデザイン」の今日的意味を考えます。
□ 5月18日
- 【実践例①】まちの本屋がつくるシーン
- BOOKS f3・主宰
- 小倉 快子
ローカル・スタンダードはすでにさまざま形で試みられている社会アクションを俯瞰する視点でもあります。本講義では「本」をめぐる二つの実例から、この視点の有効性を検証します。最初の例は「本屋さん」。いま本屋の役割が変わりつつあります。本を純粋に楽しんだり、アートに触れたりすることは、ローカルに居ながらホンモノにふれるインプットの機会をつくること。そこから地元のことを考えたり、発信していくようなアウトプットの場ともなること。その流れを無理につくるのではなく、ふつうのこととして受け入れられるまちにするために、本屋ができることについて考えます。
□ 5月25日
- 【共感の概念化①】ヴァナキュラーなグローバリズム:世界農業遺産を例に
- 総合地球環境学研究所・教授
- 阿部 健一
本講義の背景を考えるのが「概念化」。ここではそもそも地域性とは何かについて「遺産」という視点から二つの話題について考えます。まずは農業。農業というのは本来の土地に根差したもの。地域によって違ってあたり前です。それでも共通した「価値」があるように思われます。FAO(国連食糧農業機構)による「世界農業遺産」というコンセプトを紹介しながら、地域性における変えてはならないものと変えなければならないものについて考えたいと思います。
□ 6月1日
- 【共感の可視化②】インクルーシヴ・デザインという発想
- 京都工芸繊維大学Kyoto Design Lab・特任教授
- ジュリア・カセム
デザインの社会的役割の変化に伴い、従来の結果志向ではなく、完成にいたるまでのプロセスそのものの在り方を重視する試みが様々に行われています。1990年代末にイギリスではじまったインクルーシヴ・デザインはその代表例。作り手と使い手の協働に力点を置いたそのアプローチは、製品設計だけでなく、地域社会における新たなコミュニティ形成にも応用可能なものといえます。その骨子はどこにあるのかについて考察します。
□ 6月8日
- 【共感の体験化②】ローカル・フードとは何か?
- 秋田公立美術大学美術学部・講師
- 石倉 敏明
体験化は五感を通じて理解を深めることを意味します。その特性をここでは生きていく上で不可欠な「食」とのつながりから考えます。「郷土料理 local food」と呼ばれる食の体系には、地域の環境に棲息する「生き物」を解体し、「食べ物」につくりかえる精細な知恵や技術が潜んでいあす。私たちはなぜ、地域の動植物を殺し、これを食べることができるのでしょうか。「在来知」に潜む可食性の問いから、未来の食をめぐるローカル・スタンダードを展望します。
□ 6月15日
- 【共感の社会化①】地域変革の主体形成
- NPO法人コミュニティビジネスサポートセンター・理事・事務局長
- 中森 まどか
共感は、地域や世代を越え、より広範囲な人々を巻き込むことでさらなる深まりを示します。「共感の社会化」が想定するのはそうしたステージ。ここでは特に「人づくり」に注目してこのステージの意義を考えます。市民参加の文化を醸成するためには、地域づくりに参画する人びとの輪を広げるとともに、協働を促進するためのプラットホームを形成する必要があります。地域の規模や状況に応じて、参加と協働の基盤をどのように形成していくべきかという課題について、具体的な地域づくりの事例をもとに考えます。
□ 6月22日
- 【共感の言語化②】トランスリンガル詩学
- 理工学部・教授
- 管 啓次郎
「対話」は一言語内だけで行われるものではありません。とりわけ20世紀後半以後、世界文化の混成化は加速する一方です。経済移民や政治的亡命者、内戦による難民など、さまざまな事情により人々が大規模に移動し、各地の都市は多言語多文化の実験場となっています。カリブ海フランス語圏の作家エドゥアール・グリッサンのクレオル化の思想をたどりながら、多言語性に基礎を置く惑星文化の可能性を探ります。
□ 6月29日
- 【実践例②】工芸と本
- 新潮社「工芸青花」・編集長
- 菅野 康晴
グローバリゼーションがもたらした産業界の過剰なファスト化に対する抵抗がさまざまに行われつつあります。スロー・フードやスロー・ファッションはその好例といえるでしょう。同様の流れは出版産業にも起きています。従来の大量生産を前提とする出版のしくみにひずみが生じています。このひずみを克服し、別のありかたを模索する実例として、2014年に新潮社で立ち上げられた「工芸青花」という雑誌の試みがあります。同誌が参考にしたのは出版ではなく、手工芸作家の取り組みでした。工芸と本の量と質について、同誌の試みをもとに考えてゆきます。
□ 7月6日
- 【共感の概念化②】なかなか遺産:建築は,ローカルスタンダードをデザインできるか?
- 東京大学生産技術研究所・教授
- 村松 伸
地域の「遺産」をめぐる二つ目の話題は建築。近年、建築は地域の活性化に寄与する主要なツールとして、世界遺産をからリノベーションまでさまざまに注目されています。しかし,既存の取り組みではカバーできず、そのままみすみす取り壊されることにもなりかねない地域遺産があります。建築史家の村松伸さんは、それらを「なかなか遺産」と呼び、別の考え方で活動を始めました。その取り組みにおける成功・失敗の体験を踏まえて、建築とローカルスタンダードとの関係を考えます。
□ 7月13日
- 【共感の社会化②】参加型学習の潮流
- 帝京大学高等教育開発センター・講師
- 森 怜奈
共感の社会化の具体的形態としてワークショップに注目します。「ワークショップ」と呼ばれる活動が、昨今、さまざまな領域で広く実践されています。ワークショップは「他者との相互作用の中で何かを創りながら学ぶ学校外での参加型学習活動」と定義することができます。本講義では、参加型学習の歴史的・思想的背景と現代的な意味、デザインする上での留意点について考えます。
□ 7月20日
- 【総括】臨床する人文学
- 理工学部・准教授
- 鞍田 崇
ローカル・スタンダードへの問いかけを車の両輪のように駆動する二つの視点があります。哲学とデザインです。両者は社会や世界の動きを根底から批判的に検証するという点、また対話と共感を重視する点で共通しています。しかし、一方は言葉で、他方は言葉にならない感覚に訴える手法で次のステージを切り開くものです。いま両者の連携が求められています。ローカル・スタンダードという具体的テーマのもとに見てきたのは、両者の連携の模索でもあります。それは、いまだからこそ必要な人文的視点の意義を体現するものでもあります。そうした点を総括的に考察します。
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Photo: 明治大学生田キャンパス第二校舎2号館(設計:堀口捨己、1965)